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2010年11月26日 [その他(テレビ番組紹介)]

今週の月曜日に放送されていた 『プロフェッショナル 仕事の流儀』 は、絵画修復家の方が主人公でした。横で見ていた絵描きの妻と私では、たぶん関心の対象がかなり違っていたんだろうという気がしますが、私がこの方のお話を聞いたり作業の内容を見ていて思ったのは、「ウォーゲーム・レトロスペクティブ」で古いゲームを新しい商品としてリニューアル出版する事業と似ているな、ということでした。

prof.jpg

(画像はNHKホームページより)
http://www.nhk.or.jp/professional/2010/1122/index.html#b_cast

番組で語られた言葉の中で、特に印象に残ったのは「画家の技法、画家の内面を意識して、それを再現する」ことを目指す、ということと「作品は、どうして欲しいのか?」を考える、ということでした。以前に同番組で取り上げられていた、装丁家・鈴木成一さんの話とも通じるものがあるようです。来週放送予定のグラフィックデザイナー・佐藤卓さんの回も楽しみです。

お店で売られている「商品(パッケージ)」としてのゲームは、ルールブックとマップ、ユニット、チャート、サイコロ、そして箱または袋/封筒という、物理的存在の集合体です。しかし、例えば旧SPI社の 『バトル・フォー・スターリングラード』 のライセンス権を取得して、日本版を出そうとする時、ゲームの「存在」は、いったん形の無い、いわば「魂」のような「概念」の段階に戻っており、それをどのような形で最終的な「物理的存在」に仕上げる(戻す)のが良いか、ということを考えながら、日本語ルールやコンポーネントの製作作業に取り掛かるわけです。

お客さんの中には、オリジナル版(SPI版)と同じか、それに近い形での出版を望む方もおられます。しかし、過去にも同様の話を書いた記憶がありますが、私の手掛けてきた「ウォーゲーム・レトロスペクティブ」のシリーズでは、マップやユニットをオリジナル版と同じにすることよりも、製品となった時に「どういう形に仕上げたら、このゲームが持つ魅力や長所が最大限にゲーマーへと伝わるか」を意識して、製作作業を行ってきました。

もちろん、オリジナル版のコンポーネントが、前記のような目標を達成する上で「最善」と思われた時は、なるべくそれに近い形でアートワークのデザインを行いました(『バトル・フォー・スターリングラード』 のマップとユニットなど)。しかし、実際にプレイを重ねて、ゲームの魅力や長所を研究した後、オリジナル版の処理が最善ではないように思われた時には、より適切あるいは効果的と思われる、全く別の処理方法をとることもありました(『ゴールドバーグ版クルスク大戦車戦』 のユニットなど)。また、チャート類の中で、頻繁に参照するものは、可能な限りマップの余白に入れるなどの修正を加えたりもしました。

過去のゲームを生まれ変わらせるという仕事を含め、広義の「出版」という事業において、やはり大事なのは出版人がどうしたいか、よりも「ゲーム(作品)は、どうして欲しいのか」を誠実に熟考するという視点ではないか、という思いを、改めて感じました。自分の好きなようにアートワークをデザインできる立場になると、どうしても個人のエゴが表面に出てしまい、俺はこうしたい、という方向に傾いてしまいがちですが、あくまで「ゲーム(作品)の魅力や長所を引き出す」「ゲーム(作品)が持つ有形・無形の価値を可能な限り途中のロスなく、カスタマーに伝える」脇役に徹して仕事をするのが、最終的には良い結果に結びつくような気がします。

また、「画家の技法、画家の内面を意識して、それを再現する」という言葉との関連で言えば、ルールの不明点を明確化する時には「デザイナーの内面」に入り込む必要があり、それはそれで楽しい経験でした。明確化のためにルールの論理構造を分析する過程で「なるほど、このデザイナーは、こういうことを表現したくて、このルールを作ったのか」と気付くこともしばしばでした。

「ウォーゲーム・レトロスペクティブ」のシリーズは、次の 『ウエストウォール』 でいったん区切りとなり、その後については未定ですが、SPI社以外の古いゲームでも、いまだ魅力や長所が失われていないと思う作品はいくつかありますので、来年以降の課題として、ゆっくり考えてみようと思います。まずは、来年春以降に 『ウエストウォール』 が「どうして欲しいのか」を探る作業に取り組みます。

それにしても、我々が古典的な油絵や素描などの作品群を、当たり前のように目にしている美術館の裏側で、あれほど途方もない修復と保存の努力が重ねられていたとは…。「私は一七世紀のオランダ絵画が好きです」とか、つい気軽に言ってしまいますが、我々があの時代に生きた画家の作品を良好な状態で鑑賞できるのは、名も知らない無数の「修復職人」さんのお陰かと思うと、修復作業に携わっておられる方々に、改めて深い敬意を表したいと思いました。

さて、「出版」の事業とは目指すべき方向性やとるべき流儀も異なりますが、長らく続いてきたハードカバー本の執筆は、いよいよ “3 Laps to go” という最終段階です。最後まで気を抜かずに、良い本に仕上げたいと思います。興味のある方は、ぜひ楽しみにしていてください。
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銀行員

グラフィックの好みは十人十色なので、全員がよしというものはないでしょうね。けれど、作り手がどういった意図でそのデザインを選んだのか、という点を、分かり易く明快に説明されるのは、良いことだと思います。

私が好きなグラフィックの傾向は、昔のSPIやGDWのシンプルで機能的なデザインです。ゲームに熱中していたブーム期の「刷り込み効果」も多分にあるとは思いますが。。。

独ソ戦のハードカバーの新刊たのしみにしています。
by 銀行員 (2010-11-28 12:37) 

CON

Wargame Retrospectiveのシリーズでは“Dark December”と“Red Sun Rising”の2つが気に入っています。共にいい意味でのサプライズでした(笑)。こういう知名度が低い名作を掘り出して、日本版として蘇らせてください。
by CON (2010-12-01 17:16) 

Mas-Yamazaki

銀行員さま: コメントありがとうございます。ご指摘のとおり、ゲームのグラフィックというのは、ある程度普遍的な「機能性」と共に、きわめて個人的な「好き嫌い」が反映する部分なので、いつも悩むところではあります。

1970年代から80年代のSPI社やGDW社のゲーム・グラフィックは、今でも学ぶべき点は多い「手本」だと、私も思います。日本ではあまり話題になることが少ないですが、数字やアルファベットの「書体」の選択が、両社のアートワーカーはかなり優れていた気がします。おなじ「3」や「6」という数字でも、書体が変わると、ゲーム・グラフィックとしての「出来」は大きく違ってくると思います。
by Mas-Yamazaki (2010-12-03 17:33) 

Mas-Yamazaki

CONさま: コメントありがとうございます。レトロスペクティブ第2号の 『バルジの戦い』 と、第5号の 『戦略級 日露戦争』 への良い評価は、メールや例会でも時おりいただきます。商品化のコストを考えると、ある程度の「ゲームの知名度」は必要ですが、全く知られていない作品でも、まだ通用する内容を備えたものはあると思いますので、気長に取り組んでいくつもりです。
by Mas-Yamazaki (2010-12-03 17:37) 

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