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2011年2月25日 [その他(映画紹介)]

ハードカバー単行本 『宿命の「バルバロッサ作戦」』 の発売日(2月22日)と同日に、ムック本 『決定版太平洋戦争(10) 占領・冷戦・再軍備』 も発売のはこびとなりました。私も記事を一本(「東アジアに今も残る東西冷戦の構造」)書かせていただきました。

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スタート当初は全7巻の予定でしたが、読者の反響が上々ということで、途中で10巻に拡張されたという、関係者にとっては非常に喜ばしい展開となったシリーズですが、戦後の占領政策や冷戦構造と日本の関係、再軍備に至る経過を多角的な視点からカバーするこの巻も、非常に内容の濃い本に仕上がっていると思います(自分の記事はとりあえず脇に置くとして)。折込付録の1946年12月発行「GHQ 東京占領地図」も、眺めているといろいろな発見があります(いきなり「フィリピン大使館」が存在したり、カスター将軍や映画 『ワンス・アンド・フォーエバー』 で有名な第7騎兵連隊の本部が東京海洋大の敷地に置かれていたり)。


さて、昨日買い物に出たついでに本屋に立ち寄ったところ、雑誌 『ニューズウィーク』 の最新号で、映画俳優のジョージ・クルーニーが大きく取り上げられていました。彼のファンである私は、即座に「買い指令」を指先に下してレジに向かいましたが、本文記事ではエジプトの隣国スーダンが内戦を回避して南北分離に至る経過で、彼の存在と現地での活動がどのような影響を及ぼしたかが、本人への取材も交えて詳しく述べられていました。

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欧米のいわゆる「セレブ(著名人)」は、国際的な社会活動にも熱心な人が少なくないですが(オードリー・ヘップバーンの功績が大きい気がします)、クルーニーはかなり前から「社会派」の映画作品にも多数出演しており、政治意識の高い誠実な人だと感じていました(マット・デイモンやベン・アフレックも)。本人も認めている通り、若い頃はけっこう羽目を外したりもしていて、女性関係も華やかで、決して「聖人君子」タイプではないですが、完全に自分のスタイルを確立して仕事や社会活動に関わる姿勢を見ると、本当にカッコいい人だな、と思います。

この人の出演した映画の中で、特に強く印象に残っているのは、『シリアナ(Syriana)』 という作品です。カタカナ四文字で書くと、どうも間抜けな印象のタイトルですが、これは中近東のシリアからイラク、イランに至る一帯をアメリカの利益に適う政体に作り変える構想を指す、CIA(米中央情報局)内部の隠語だそうです。クルーニーは、この作品でCIAの重要工作員を演じている(アカデミー助演男優賞、ゴールデングローブ賞助演男優賞を受賞)のですが、アメリカ政府と中東産油国の歪んだ関係、そして9.11以降に世界を覆う、いわゆる「対テロ戦争」の背景にある諸々の「原因」について、これほどリアリティある形(この方面について分析研究記事を書いてきた経験に基づく評価)で描き出した作品は、他にはちょっと思いつきません。

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アマゾンのレビューをはじめ、映画評のサイトやブログなどを見ると、この作品に対する一般的な評価はあまり高くないようですが、その原因はおそらく、観る側が中東諸国とアメリカの関係について多少の予備知識を持っていないとわからないパートが少なからずあるからだと思います(実際、そのような指摘も批評で書かれています)。けれども、例えばパキスタンからの出稼ぎ労働者が、絶望の果てにたどり着いた「救済の道」とか、考え方の異なる産油国の二人の王子(私はシリアナというよりサウジアラビアの方を連想しました)に対する、アメリカ政府と多国籍企業の態度など、この作品は現在進行中の「歴史」について、非常に示唆に富んだ内容を含んでいるように感じました。あと何十年かしたら、同時代を鋭く描いた野心作として、再評価されるのでは、という気がします。

クライマックスのシーンで、クルーニー演じるCIA工作員が、王子の一人に向かって、何かを言おうとします(ネタバレぎりぎりなので、これ以上は書きません)。それが何であったのか。私が映画を観たときに「こうではないか」と思ったことが、スーダンで彼の行った行動によって裏付けられたような気がして、私はこの人をさらに尊敬するようになりました。エジプト政変で若者たちを勇気づけたのは、実は隣国スーダンでの(当初は誰もが実現の可能性に否定的だった)民主投票だった、という本文記事の指摘は、日本のテレビや新聞などでは触れられていない視点だと思います。

ちなみに、製作総指揮はジョージ・クルーニーのほか3人ですが、そのうちの1人スティーヴン・ソダーバーグは 『トラフィック』 などを撮った社会派の監督で、これも忘れられない作品の1つです(主演のベニチオ・デル・トロの卓越した演技、アメリカとメキシコのシーンを画面の色調と質感で切り分ける絶妙の演出、そしてハッピーエンドではないものの穏やかな余韻の残るエンディングなど)。

これ以外にも、『ニューズウィーク』 の最新号には「強権アラブ 独裁者の保身術」(ここでも中東の独裁者と米CIAの関係について触れられています)や元米国防長官ラムズフェルドの回顧録に関連した(批判的)記事二本など、最近よくゲーマーのブログで見かけるGMT社のカードドリブン・ゲーム 『ラビリンス』(未入手ですが私も近々買うつもり)の参考情報としても有益な記事が掲載されており、この分野に関心のある方にはお薦めできる内容です。中近東とは関係ありませんが、日本公開が楽しみな映画 『英国王のスピーチ』 誕生秘話(コリン・ファースではなく、脚本家の方がメイン)も、なかなか興味深い記事でした。 
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イジール

はじめまして。昨年購入した著書の「中東戦争全史」「西部戦線全史」(学研文庫)に感銘を受けて以来、こちらのブログをリンク先に入れさせてもらっています。ちょうど友人に借りたシュミレーションゲーム「ハーツオブアイロン2」にハマっていた時期でしたし(今もですが・・)、もともと地政学や国際政治に興味はあったのですが、その割には詳しい戦史などは疎いほうでしたので、豊富なデータを満載した両著は、いろいろな意味で非常に参考になりました。ありがとうございました。

ジョージ・クルーニーは先日、CNNのトーク番組に出演しているのをたまたま見ました。アフリカでの活動の様子を話したり、実際の活動の様子を映像で流していましたが、適当に見ていたのではっきりとどこの国だか分かりませんでした。こちらの記事から判断すると、どうもスーダンのようですね。昔「ピースメイカー」を見て以来、「なんか格好つけた俳優やな」と敬遠していたのですが、山崎さんのお話を聞く感じでは、どうやらその見方を改めなければいけなさそうです。

「バルバロッサ作戦」、面白そうですので、また買わせていただきます。ドイツ軍は妙に魅力がありますから・・・・これからもちょくちょくお邪魔させてくださいね。ではでは。
by イジール (2011-03-03 20:38) 

Mas-Yamazaki

イジールさま: コメントならびに本のご購入ありがとうございます。CNNで、そんな番組をやっていたとは知りませんでした。某Tubeで探してみます(笑)。ジョージ・クルーニーは、俳優としても監督や製作者としても、才能を発揮している人で、シリアスな役柄からおバカなコメディまで、幅広く演じ分けられるのがすごいと思います。最近の作品では、『マイレージ・マイライフ』 と 『グッドナイト・アンド・グッドラック』 がお薦めです。

あと、リンクされているブログを拝見しました。ユーリズミックスとは懐かしい。私も中学生の頃、よく聴いていました。特に好きだったのは「ヒア・カムズ・ザ・レイン・アゲイン」です。http://www.youtube.com/watch?v=MeYzcGXyqKw&feature=fvwre ロバート・ハリスの小説 『ファーザーランド』 を読んだ時、エンディングでなぜかこの曲が頭の中でかかっていました(笑)。
by Mas-Yamazaki (2011-03-04 22:27) 

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